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この映画のタイトルを見た時、多くの人がそう思うでしょう。私もそうでした。しかし、これは実在する主人公の名前だったのです。なんという皮肉でしょうか。
そして映画の内容は、FBIの録音記録を一言一句再現するという手法により、細部に至るまでこだわり抜かれた、まさにタイトル通りの「リアリティ(現実)」そのものの映画でした。
この記事では、この衝撃作の裏側にある「メディアの致命的なミス」と、彼女の逮捕から出所後までの真実を徹底的に掘り下げます。
【重大なネタバレ警告】
この記事は、映画『リアリティ』の結末および、モデルとなった実話の核心的な部分をすべて含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
1. 作品概要:録音記録がそのまま脚本に
2023年のアメリカ映画『リアリティ』(原題:Reality)は、FBI尋問の「録音記録」を一言一句そのまま脚本にした異色のサスペンス映画です。
- タイトル:リアリティ(原題:Reality)
- 主演:シドニー・スウィーニー(『ユーフォリア』)
- 最大の特徴:脚本のセリフが、実際のFBI尋問の録音記録と完全に一致しています。咳払い、言い淀み、沈黙に至るまで、全てが再現されています。
2. 緊迫のあらすじ(捜査開始から自白まで)
物語は、2017年6月3日、ジョージア州で始まります。
元空軍兵で、NSA(国家安全保障局)の契約社員として働く25歳の女性、リアリティ・ウィナーが買い物から帰宅すると、自宅前に2人のFBI捜査官(ギャリックとテイラー)が待ち構えていました。
捜査官はあくまで「ボランティアでご協力いただきたい」と穏やかな口調を装いますが、家宅捜索の令状を突きつけ、リアリティを自宅の小さな空き部屋へと誘導します。ここから、約1時間以上にわたる緊張感あふれる尋問が始まります。
世間話や愛犬の話から入り、次第に「仕事上の文書」に関する話題へ。リアリティは最初は平静を装いますが、質問が核心に迫るにつれ、彼女の表情と声は徐々に追い詰められていきます。
最終的に、捜査官が決定的な証拠(NSAからの文書のコピー)を提示すると、リアリティはついに観念し、機密文書を印刷して持ち出したことを認めます。
3. 【実話の深掘り】メディア「The Intercept」の罪と逮捕の真相
映画のモデルとなった「リアリティ・ウィナー事件」は、単なる漏洩事件ではありません。情報源を守るべきメディア側の杜撰な対応が、一人の若者の人生を決定的に狂わせた事件でもあります。
① 漏洩した文書の内容
リアリティが盗み出したのは、「ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)が、2016年米大統領選の直前に、米国の投票システムベンダーや地方選挙当局者100人以上にサイバー攻撃を仕掛けていた」というNSAの最高機密報告書(2017年5月5日付)でした。
彼女はCBSの番組『60 Minutes』で、「アメリカ国民がロシアによる選挙介入について意図的に誤解させられていると感じたため、リークした」と語っています。
② 『The Intercept』の致命的なミスと逮捕の経緯
リアリティは匿名でネットメディア『The Intercept』に文書を郵送しましたが、彼女の身元はあっという間に特定されました。その原因は、メディア側のあまりにも軽率な行動にありました。
▶ 特定に至った「3つのミス」
- ミス1:そのままNSAに送ってしまった
『The Intercept』は文書の信憑性を確認するため、なんとそのコピーをそのままNSAに送付してしまいました。これによりNSAはFBIに通報しました。 - ミス2:物理的な痕跡「折れ目」
FBIの報告書によると、文書には「折り目やしわ」があり、機密エリアから印刷して手で持ち出されたことが示唆されていました。 - ミス3:決定的証拠「プリンター追跡ドット」
これが最大のミスです。メディアが公開した文書のスキャン画像には、「マイクロドット(黄色い点)」がそのまま残っていました。NSAはこのドットを解析し、印刷された正確な日時とプリンターのシリアルナンバーを特定しました。
内部監査の結果、その特定の日時に文書にアクセスした6人のうち、個人のメールアドレスで『The Intercept』と接触していたのはリアリティただ一人でした。令状を取ったFBIが彼女の電子機器を捜索し、逮捕に至りました。
後に『The Intercept』の共同創設者グレン・グリーンワルドは、これを「深く恥ずべき編集室の失敗」と呼び、担当編集者の「スピード優先と無謀さ」を批判しました。
③ 判決:見せしめのような重刑
リアリティはスパイ防止法違反で起訴されました。検察側は彼女が「タリバンの指導者やオサマ・ビン・ラディンへの支持を日記に書いていた」として保釈を認めませんでしたが、これは彼女の言語学者としての興味を歪曲したものだという反論もありました。
最終的に彼女は司法取引に応じ、懲役5年3ヶ月(63ヶ月)の実刑判決を受けました。これは、メディアへのリークに対する連邦裁判所の判決として史上最長のものでした。
4. 出所後のリアリティ・ウィナー
刑務所での苦難と早期釈放
収監中、彼女は摂食障害の悪化やCOVID-19への感染など、過酷な状況に置かれました。パンデミックを理由とした自宅軟禁への移行要請は却下されましたが、刑務所内での「善行(good behavior)」が認められ、刑期満了前の2021年6月2日に早期釈放されました。
現在はテキサス州の移行施設を経て、保護観察下で生活しています。彼女は釈放後も演劇作品『Is This A Room』(本作の原案となった舞台)の制作チームと対話するなど、自身の体験を伝える活動に関わっています。
まとめ:現代の「現実」を映すホラー
映画『リアリティ』は、ただの再現ドラマではありません。一人の若き女性が、正義感から起こした行動によって、国家権力とメディアの不手際という二つの巨大な力に押しつぶされていく過程を描いた、現代のホラー映画です。
「Reality(リアリティ)」という名前が持つ意味、そして彼女を追い詰めたのが高度な捜査ではなく「紙に印刷された黄色いドット」だったという皮肉な事実。これらを知った上で鑑賞すると、彼女の震える声の一つ一つに、より深く胸を締め付けられることでしょう。










