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2025年に公開されたインド映画『Baramulla(バラムラ)』は、カシミールの美しい雪景色とは裏腹に、観客を深い混乱へと突き落とす難解な作品です。

筆者自身も、「これってホラーなの?サスペンスなの?」「霊の話?それとも普通の宗教や政治の問題?」と、正直なところ終盤までよく分からないまま観ていました。散りばめられた謎が多すぎて、中盤は眠かったな(笑)というのが正直な感想です。
しかし、全ての謎が一点に収束するラストには、思わず「なるほどね~!」と膝を打つ衝撃的な結末が待っていました。
【重大なネタバレ警告】
この記事は、映画『Baramulla(バラムラ)』(2025)のすべてのネタバレを全面的に含みます。未鑑賞の方は、ここから先は自己責任でお進みください。
【考察】なぜ難解? 歴史・宗教背景(カシミール問題)が鍵
本作が難解に感じられる最大の理由は、その舞台設定にあります。本作を理解するには、歴史や宗教の背景を知っておくと、中盤の「眠さ」が「伏線」に変わり、物語の深層が見えてきます。
カシミールの悲劇:パンディットの迫害
物語の核となるのは、1980年代末から1990年代初頭にかけてカシミール地方で実際に起きたカシミール・パンディット(ヒンドゥー教徒)の迫害と大量追放という痛ましい歴史です。
| 舞台背景:カシミール地方(バラムラ) |
|---|
| 物語の舞台となるカシミール地方は、イスラム教徒が多数を占め、長年にわたりインドとパキスタンが領有権を奪い合っている複雑な地域です。この緊張下で、90年代初頭、分離独立を求める過激派勢力が台頭し、少数派であるヒンドゥー教徒(パンディット)への迫害が激化。多くのパンディットが殺害されるか、故郷を追われ難民となりました。映画で描かれるサプルー一家の惨劇は、この歴史的トラウマに基づいています。 |
ホラーか?サスペンスか?(難解だった中盤の理由)
この映画が巧みなのは、この現実の緊張状態を利用している点です。観客は中盤、「人さらい(サスペンス)」と「霊の仕業(ホラー)」のどちらが真相か分からないまま物語を見せられます。これが「難解さ」と「中だるみ(眠気)」の原因です。
- 現実のサスペンス(人さらい):娘サナが失踪した時、リドワーン警部が真っ先に疑うのは、政治的な動機による「人さらい」(過激派組織による勧誘や誘拐)です。これはカシミールでは現実に起こり得る脅威です。
- 超自然ホラー(霊の仕業):一方で、邸宅では「霊の仕業」としか思えない怪異(子供が木に吸い込まれる、白い花が現れる)が起こります。
ラストで、この**両方が真実であった**ことが判明します。「過激派(ジュネイドら)が子供を勧誘しようとし、それを察知した霊(イーラーら)が子供たちを保護(霊的領域に隠す)していた」のです。
「信仰は度が過ぎると恐ろしい」
ご感想にあった通り、本作は「信仰の恐ろしさ」も描いています。それは、政治的・宗教的な過激思想(バイジャーンの組織)という「現実の狂信」と、過去の怨念に縛られたイーラーの「霊的な執着」という、二重の意味での恐ろしさです。
『Baramulla(バラムラ)』(2025) 作品概要
本作品は、カシミールという土地の持つ歴史的な重みが、霊的な現象と結びついた新しいタイプのホラーです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 原題 | Baramulla |
| ジャンル | 超自然ホラー・スリラー |
| 舞台 | インド、ジャンムー・カシミール州バラムラ |
| テーマ | 過去の裏切りと復讐、家族の絆、憑依、宗教的な要素 |
主要キャストと配役(最終FIX版)
物語の核心となるリドワーン一家と、事件に関わる重要人物を演じた俳優陣を紹介します。
| 役名 | 俳優名 | 役柄(ネタバレ含む) |
|---|---|---|
| DSP リドワーン・サイエッド | マナフ・カウル (Manav Kaul) | 主人公。カシミールに赴任した警官。娘の失踪事件を追う。 |
| ザイナブ | ニーロファー・ハミド(Neelofar Hamid) | 学校の教師。その正体は、過去にサプルー家を裏切った少女本人であり、謎の指導者「バイジャーン」としての顔も持つ。 |
| ジュネイド・マリク | シャヒド・ラティーフ(Shahid Lateef) | ザイナブ(バイジャーン)の組織の実行犯。子供たちの勧誘(人さらい)を行う。 |
| シャラド・サプルー | サンジャイ・スーリー (Sanjay Suri) | 過去の惨劇の唯一の生存者(イーラーの弟)。現在はムンバイーで医師。 |
| サナ・サイエッド | アリスタ・メータ (Aristha Mehta) | リドワーンの娘。失踪する。 |
| ファルハーン | アシュウィニ・コール (Ashwini Kaul) | 地元の青年。リドワーンに協力する。 |
『Baramulla(バラムラ)』(2025) 予告動画
【全編ネタバレあらすじ】消える子供たちと邸宅の秘密
序盤:娘サナの失踪と二重の捜査
物語は、DSPのリドワーン・サイエッド(マナフ・カウル)がカシミールに赴任したところから始まります。
娘のサナが失踪し、リドワーンは当初、これをカシミールの政治的事情による「人さらい(サスペンス)」として捜査を開始します。
捜査線上に、ジュネイド・マリク率いる過激派組織が浮上。
彼らは謎の指導者「バイジャーン」の命令で、子供たちを洗脳し勧誘していると疑われます。
リドワーンは、娘が彼らに誘拐されたと考えます。
中盤:幽霊の介入(ホラーかサスペンスか)
しかし、事件は不可解な様相を呈します。
ジュネイドが別の子供ヤスィールを連れ去ろうとする現場で、リドワーンは子供が突如木の中に吸い込まれて消えるという超自然的な現象を目撃します。
同じ頃、リドワーンの家(かつてのサプルー邸)では怪異が頻発。白い花が現れ、妻シャビナらは霊の存在を感じ取ります。
ここで観客は「人さらい(サスペンス)」と「霊の仕業(ホラー)」のどちらが真相か分からない状態に陥ります。(※これが「中盤眠かった」と感じる難解さの正体です)
終盤:幽霊=救済者、黒幕=バイジャーン
終盤、全ての謎が繋がります。
- 幽霊の正体(ホラー側の真相): 邸宅に潜む霊は、90年代の虐殺で死んだサプルー家の娘イーラーと母マンシでした。彼女たちは、過激派(ジュネイドら)に勧誘されそうになる子供たちを「保護」するため、霊的な領域(木の中など)に隠していました。幽霊は敵ではなく、救済者だったのです。
- 真の黒幕(サスペンス側の真相): リドワーンはジュネイドの組織を追い詰めます。ジュネイドを銃で撃った後に、ジュネイドの電話でバイジャーンをかけると、鳴ったのは学校教師ザイナブの電話でした。
ザイナブこそが、謎の指導者「バイジャーン」であり、子供たちを勧誘していた真の黒幕でした。さらに衝撃的なことに、彼女こそが、90年代にサプルー家の居場所を過激派に密告した、イーラーの親友=**裏切り者の少女本人**だったのです。
【結末の真相】裏切り者への復讐と子供たちの帰還
ジュネイドとザイナブ(バイジャーン)はリドワーンの家に逆襲をかけ、過去の虐殺が繰り返されそうになります。ジュネイドはザイナブを人質に取り、逃走を図ります。
イーラーの裁きと子供たちの帰還
その瞬間、グルナール(憑依体)は、サプルー家の母マンシの霊に導かれ、ザイナブ(=バイジャーン=真の裏切り者)を射殺します。リドワーンも実行犯ジュネイドを射殺します。
過去の裏切り者と現在の黒幕が同時に裁かれたことで、イーラーとマンシの霊の怒りはついに収まりました。その瞬間、木の中に「保護」されていたサナをはじめとする全ての子供たちが、この世に帰ってくるという奇跡的な結末を迎えます。リドワーンは娘サナと再会し、家族はバラムラを去ります。
エピローグ:残された生存者
6ヶ月後、ムンバイー。リドワーンは、過去の惨劇の唯一の生存者であるシャラド・サプルー(イーラーの弟、現在は医師)を訪ねます。リドワーンがイーラーの遺品である貝殻の小箱を手渡すと、シャラドは涙を流し、過去の魂がようやく鎮魂されたことを示唆して物語は幕を閉じます。
まとめと考察:「なるほどね~」のラスト
『Baramulla』(2025)は、単なる幽霊譚ではなく、カシミールという土地に深く根差した「過去の因縁」と「正義の復讐」を描いた作品でした。
中盤までは「政治サスペンス(人さらい)」と「オカルトホラー(霊の仕業)」の謎が散りばめられ、非常に難解で眠気を誘いますが、それらすべてがラストの「真の黒幕(バイジャーン)=過去の裏切り者(ザイナブ)」という一点に収束し、霊による裁きでカタルシス(なるほどね~!)を得るという見事な構成でした。
- 幽霊の逆転劇: 敵だと思われていた幽霊(イーラー)が、実は過激派から子供を守る「救済者」であったという展開が、この映画の最大の魅力です。
- 「信仰」の恐ろしさ: ご感想にあった通り、「信仰は度が過ぎると恐ろしい」というテーマも、政治的な過激思想(ザイナブ/バイジャーン)と、復讐に取り憑かれた霊(イーラー)の両方で描かれています。
この映画は、ホラーというジャンルを通じて、カシミールという土地の歴史的なトラウマと、そこから生まれる復讐の連鎖を描き切った秀作と言えるでしょう。





