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キム・ギドク監督の遺作映画『人間の時間』… 食人描写と衝撃の結末が問いかける“人間”とは?
あなたは、人類の歴史の縮図を90分で目撃する覚悟がありますか?
暴力、欲望、裏切り、そしてカニバリズム(食人)、人間のあらゆる罪を詰め込んだ一隻の船を舞台に、観る者の倫理観を根底から揺さぶる問題作…それが、2020年に急逝した韓国映画界の鬼才、キム・ギドク監督が世界に遺した最後の作品『人間の時間』(原題: Human, Space, Time and Human)です。

チャン・グンソク、アン・ソンギ、イ・ソンジェといった韓国の名優に加え、日本から藤井美菜、オダギリジョーが出演という豪華キャストが演じる極限状態の寓話は、一度観たら忘れられない強烈な問いを私たちに投げかけます。
この記事では、本作のあらすじから見どころ、そしてネタバレを含む衝撃的な結末とその意味までを徹底的に解説・考察します。
人間の時間:作品情報
邦題 人間の時間
原題 Human, Space, Time and Human (인간, 공간, 시간 그리고 인간)
公開年 2018年(ベルリン国際映画祭)、2020年(日本)
製作国 韓国
監督・脚本 キム・ギドク
上映時間 122分
ジャンル ドラマ、スリラー
指定 R15+
キャスト
イヴ:藤井美菜
アダム:チャン・グンソク
謎の老人:アン・ソンギ
アダムの父親(政治家):イ・ソンジェ
イヴの恋人:オダギリジョー
ギャングのボス:リュ・スンボム
キャプテン:ソン・ギヨン
キソク役:ウ・ギフン
他
キム・ドンチャン
アン・フィリップ
イ・ユジュン
テ・ハンホ
ソン・フェヤ
パク・セイン
等が出演しています。
予告動画
あらすじ(ネタバレなし)
様々な人間を乗せた一隻の古い軍艦が、旅に出る。
乗客は、欲望に忠実なチンピラ(チャン・グンソク)、息子に権力を引き継ごうとする政治家(イ・ソンジェ)、売春婦たち、そして優しい夫と旅をする新婚の女性イヴ(藤井美菜)など、まさに社会の縮図だ。
欲望と暴力が渦巻く船内で一夜が明けると、事態は一変する。船は大海原ではなく、どこまでも続く雲の上に浮かんでいたのだ。
GPSは機能せず、外部との連絡も不可能。食料と水は尽き、閉ざされた空間で乗客たちの理性は失われていく。
力を持つ者が食料を独占し、弱者は蹂躙される。
人間の本性が剥き出しになったとき、そこは地獄と化す。
全く想像できない映画だと思います。異色映画…終わった後に色々と考察して話し合いたくなるような映画です。
見どころと本作が突きつけるテーマ
閉鎖空間「船」が象徴するもの
本作の舞台である「船」は、単なる乗り物ではありません。これは現在の地球そのもののメタファーです。
限られた資源(食料)を巡って争い、階級が生まれ、暴力が支配する。
キム・ギドク監督は、この船という閉鎖空間を通して、人類が繰り返してきた愚かな歴史を寓話として描いています。
豪華キャストが演じる「人間の業」
本作では、日韓の豪華キャストが人間の持つ醜い「業」を体現します。
特に、これまでとは真逆の残忍な悪役を演じたチャン・グンソクの怪演は必見です。
初めは優しかった男が、ラストには豹変している…その姿は恐ろしい。
しかし、それこそが本来の人間の姿なのではと思ってしまいました。
見事に人間の持つ醜い「業」を描いています。
また、唯一の希望のように描かれるヒロイン・イヴを演じた藤井美菜の体当たりの演技、そして物語の鍵を握る謎の老人を演じた名優アン・ソンギの存在感が、この地獄絵図に深みを与えています。
【ネタバレ考察】衝撃の結末とラストシーンの意味
※ここからは物語の核心に触れる重大なネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
暴力、支配、そして食人へ
食料が尽きた船内では、政治家とギャングのボス(リュ・スンボム)率いるチンピラたちが結託し、暴力で全てを支配します。
彼らは食料を独占し、女性たちをレイプし、逆らう者を容赦なく殺害。
イヴもまた夫を殺され、絶望の淵に立たされます。
やがて、蓄えられていた食料も底をつき、人々は狂気の果てにカニバリズム(食人)に手を染め始めます。
殺された者、死んだ者の肉を貪る姿は、まさに人間の尊厳が完全に失われた瞬間です。
正直…理性を失った人間の姿は観るに堪えられないシーンの連発で、胸糞が凄く悪くなりました。
老人とイヴ、そして生まれる子供は4人の誰の子供なのか?
混乱の中、イヴは船の仕組みを唯一知る謎の老人(アン・ソンギ)に助けられます。
彼は土を持ち込み、船内で植物を育て、生命のサイクルを維持しようとします。
やがてイヴは恋人、イヴをレイプした3人政治家、アダム、ギャングのボスの4人の誰かの子をの身ごもります。
これは、旧約聖書の「アダムとイヴ」を彷彿とさせ、人類の新たな始まりを予感させます。
しかし、キム・ギドク監督が描く希望は、決して甘いものではありません。
人間の時間に出てくる老人の正体は?
『人間の時間』に登場する老人の正体について、公式に明確な答えは示されていません。
しかし、作中の役割や言動から、多くの解釈が生まれています。
最も有力な解釈は、彼が「神」や「創造主」、「自然の摂理」を象徴する存在だというものです。
「創造」と「再生」の象徴
老人は船内に土を持ち込み、食べ物を育て、イヴに種の蒔き方を教えます。これは、争いと破壊で満ちた船の中で、唯一「創造」と「再生」を試みている行為です。彼は人類の愚かさを嘆きながらも、生命のサイクルを絶やさないよう見守っています。
超越的な存在
彼は他の登場人物のように狂気に陥ることも、暴力に手を染めることもありません。
常に冷静で、物事を客観的に見ています。
この様子は、人間の時間や空間を超越した、まるで歴史を傍観する神のような存在を想起させます。
「知恵」の継承者
彼はイヴに「卵は土に還すものだ」と教えます。
これは、食べ尽くすだけの人間に対し、生命を循環させるための知恵を伝えているシーンです。
この知恵は、ノアの方舟の物語のように、新たな世界を生きるための希望にも見えます。
監督の意図
キム・ギドク監督は、寓話的な作風で知られており、登場人物は特定の概念やテーマを象徴していることが多いです。
この老人を特定の人物として描くのではなく、人類の歴史と向き合う「知恵」や「自然」のメタファーとして意図したと考えられます。
彼は、人間がいかに愚かで自己中心的であるかを見せつけた上で、それでもなお生命は続いていくという、監督なりの絶望と希望を同時に表現する役割を担っていたのかもしれません。
ラストシーンの解釈:子供の父親は‥
人々が殺し合い、死に絶え、船に残されたのはイヴと、彼女が産んだ成長した息子だけになっています。
船は食物が成長し、森のような感じ、船はノアの箱舟のようにも見えます。
成長した息子は4人の誰の子だったのでしょう?
息子はイヴのスカートをめくり欲望を出します。
イヴはスカートを直し、その場を逃げ去りますが、息子は欲望をむき出しにし追いかけてきます。
イヴが捕まり叫び声をあげるところで映画は終了します。
この衝撃的なラストは、何を意味するのでしょうか?
キム・ギドク監督は、安易な救いや希望を描きません。ただ、人間の醜さと、それでもなお続く生命の営みを容赦なく突きつけます。
鑑賞には精神的な体力を要しますが、観終わった後、あなたの心に間違いなく深く突き刺さる爪痕を残すでしょう。
イヴが生んだ子供の行動は映画を観たら分かりますが、ギャングのボス(リュ・スンボム)の行動そのものでした…。
父親はギャングのボス(リュ・スンボム)だと考えられます。イヴが一番生みたくなかった遺伝子ではないでしょうか?
息子は、船内で繰り広げられた人間のあらゆる『業』(暴力、権力欲、性欲)そのものを引き継いだ存在とも言えるでしょう。
「人間の時間」は、映画ファンを公言するならば、好き嫌いは別として、一度は向き合うべき傑作であり、遺作にして最大の問題作です。
映画「人間の時間」の評価
映画『人間の時間』は、キム・ギドク監督の作品の中でも特に評価が分かれる、賛否両論が極めて激しい映画です。
映画サイトなどで評価を調べてまとめてみました。
高く評価する意見(肯定的評価)
強烈なテーマ性と寓話性:「船」を人類社会の縮図として描き、暴力、欲望、食人といった人間の本質を容赦なく描いている点が評価されています。見る者の倫理観を揺さぶり、深く考えさせる問題作として、その芸術性を認める声が多くあります。
監督の作家性の集大成:キム・ギドク監督特有の、露骨な暴力描写や性描写、そして象徴的な物語のスタイルが、遺作として集大成されたと見なされています。特に、既存のジャンルに収まらない不条理劇として評価する声もあります。
俳優陣の熱演:チャン・グンソクがこれまでとは異なる残忍な悪役を演じている点や、藤井美菜がヒロインとして体当たりの演技を見せている点など、キャストの演技力が作品の重厚さを支えていると評価されています。
否定的な意見(低い評価)
過剰な暴力・性描写::多くの観客が最も不快感を覚える点として、執拗なレイプシーンやカニバリズムの描写が挙げられます。これを「ただの胸糞悪い映画」「不快で鑑賞に耐えられない」と断じる声が非常に多いです。
設定の不自然さ・雑さ:「なぜ船が空に浮かんだのか」「登場人物同士が言葉の壁なく通じ合っているのはなぜか」といった、物語の根幹に関わる設定が不明瞭である点が批判されています。これにより、物語の世界に入り込めず、陳腐な寓話としてしか見られないという意見もあります。
メッセージの単純さ:「人間は欲望に忠実で愚かである」というメッセージが、暴力的な描写を多用しすぎた結果、かえって単純化され、深みに欠けていると感じる観客もいます。
まとめ
『人間の時間』は、万人受けするエンターテイメント作品とはかけ離れた、非常に挑戦的な映画です。
好きな人
キム・ギドク監督のファンや、刺激的で寓話的な作品を好む層からは、「傑作」「見るべき問題作」と高く評価されます。人間の本質を深くえぐるテーマ性に強い感銘を受けるでしょう。
嫌いな人
過激な描写に抵抗がある人、ストーリーの論理性を重視する人、単純に後味の悪い映画を避けたい人にとっては、「駄作」「人生の無駄」とまで言われるほどの低い評価を受けることがあります。
この映画の評価は、観客が何を映画に求めるかによって大きく変わると言えるでしょう。観る人を選ぶ作品であることは間違いありません。
最後に僕の個人的評価は…
日本ではなかなか描かれなさそうな、胸糞映画でしたが…色々と深く考えらされる内容で、映画好きにはたまらない作品だと思います。個人的にはオススメの映画です。
人間の時間のような胸糞映画は他のもオススメの映画があります。